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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(オ)977号 判決 1963年5月31日

主文

一、原判決及び第一審判決中所有権保存登記の抹消登記手続請求に関する部分を次のとおり変更する。

上告人は、福岡市大字箱崎二八〇六番地家屋番号明治町二八番、木造瓦葺平屋建寺院一棟建坪一五坪二合、附属建物木造小板葺平屋建物置一棟建坪八合、木造スレート葺二階建事務所一棟建坪二合五勺外二階二坪八合七勺の所有権保存登記につき主たる建物を附属建物より分割登記の上、右主たる建物の所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

被上告人のその余の請求を棄却する。

二、上告人のその余の上告を棄却する。

三、被上告人と上告人との間に生じた訴訟の総費用は、これを一〇分し、その一を被上告人の負担とし、その余を上告人の負担とする。

理由

上告代理人江口繁の上告理由第一点について。

原判決(第一審判決引用。以下同じ)は、挙示の証拠に基づき、原告(被上告人)は昭和二九年八月三〇日頃訴外新開利夫との間に本件土地並びに判示甲建物(以下単に甲建物という)の売買契約を締結したが、代金の完済、所有権移転登記手続の完了までは、なおその所有権を買主に移転しない趣旨であつた旨を認定しているのであつて、所論のように常に売買契約締結と同時に売買物件の所有権が買主に移転するものと解さなければならないものではない(引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない)。所論は、原審適法の事実認定を争うか、または、独自の見解を述べるものであつて、採用するに足らない(違憲の論旨は、その前提を欠き、理由がない)。

同第二点について。

所論増築部分が甲建物と別個独立の存在を有せず、その構成部分となつている旨の原審の認定は、挙示の証拠に照し、首肯するに足りる。このような場合には、右増築部分は民法二四二条により甲建物の所有者である被上告人の所有に帰属し、上告人は右増築部分の所有権を保有しえず、従つて、その保存登記をなしうべきかぎりでない。所論は、原審適法の事実認定を争うか、または、独自の見解に立つものであつて、採用しえない。

同第四点について。

原判決は、本件土地が被上告人所有のものであることを認定した後、所論使用貸借関係が解除により終了し、上告人の右土地の使用権限はなくなつたとの理由により、すなわち、被上告人の右所有権に基づく回復請求権を理由として、所論被上告人の請求を認容しているのであつて、所論のように直接右使用貸借契約の解除を原因とするものでないことは判文上明らかである。従つて、所論は採用しえない。

同第三点について。

原判決は、本件附属建物二棟が、いずれも、独立の建物であつて、上告人の所有に帰属していることを認定しながら、判示の乙建物(以下単に乙建物という)に関する所有権保存登記が無効のものとして抹消さるべきものである以上、その従たる本件附属建物二棟の登記もまた当然抹消さるべきであるとの理由により、上告人に対し、本件附属建物二棟に関する所有権保存登記部分をも含めてその抹消登記手続を命じているのである。

しかしながら、不動産登記法は主たる建物とその附属建物との分割登記の手続を認めているのであるから(九四条)、右のように主たる建物(乙建物)に関する所有権保存登記が無効のものとして抹消さるべき場合であつても、主たる建物と附属建物(本件附属建物二棟)とを分割する登記手続を履んだ上で、主たる建物のみの所有権保存登記の抹消を命ずれば十分であつて、敢えて、ひとたび主たる建物とその附属建物として一用紙に登記がなされているからといつて、常に当然主たる建物とその附属建物との処遇を合一にすべきであるとの根拠は毫も存しない。

従つて、原判決が、前記のような理由により、上告人に対し、本件附属建物二棟に関する所有権保存登記の部分の抹消登記手続を命じているのは法令違背の違法を犯すものといわざるをえず、論旨は理由があり、原判決はこの点において一部破棄を免れない。そして、右の部分については、原判決の確定した事実により自判をするに熟すると認められるから、当裁判所において自判すべきものである。

よつて、民訴四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、九二条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田 克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介)

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